たよりとお知らせ

「いのちを還す森」構想について、新聞記事が掲載されました。

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2021年8月14日 登壇・メディア掲載

ハヤチネンダの「いのちを還す森」について、共同通信社に取材をしていただいた記事が配信され、福井新聞、信濃毎日、高知新聞、中部経済新聞に掲載されました。共同通信社、高知新聞社の承諾を得て紙面を転載させていただきます。

取材をしてくださった共同通信社の西出勇志記者は、長く信仰と社会、死生観などについて執筆をされてきた方で、「いのちを還す森」の構想に込めた私たちの想いや願いと、実現に向けた現在の活動について、大変温かく丁寧に取材をしてくださいました。関係者一同、こころから感謝しております。


  • 福井新聞 7月26日「こころ」欄に掲載
  • 信濃毎日新聞 7月27日夕刊「祈りと社会」欄に掲載
  • 高知新聞 7月30日「こころ」欄に掲載
  • 中部経済新聞 8月2日「こころ」欄に掲載

いのち還す森つくる 大自然の中の葬送模索

先祖祭祀など生者と死者を結ぶ文化は、かつての暮らしの中で豊かに息づいていた。それが今、近代文化や都市化によって急速に失われつつある。

長く受け継がれてきた死生観を含む、共同体の物語を現代に紡ぎ直し、生を終えた時は大自然の循環に入りたい。そんな思いを共有する人々の「いのちを還す森」構想が、古来の精神文化が色濃く残る地で動き始めた。

早池峰山を望む

遠く近く、前後左右から鳥の鳴き声が間断なく聞こえる。立体音響に包まれながら木々が生い茂った山道を登ると、小さな丘に出た。一気に眺望が広がり、雲がかかる山並みが遠くに望めた。「あれがハヤチネですね」。植生調査で先導する今井航大朗さんが指した先に早池峰山があった。民俗学者の柳田国男が、民間伝承を集めた代表作「遠野物語」の中で「四方の山々の中に最も秀でたる」と評した山だ。

普段は東京で暮らしている今井さんは、岩手県遠野市と東京の双方に拠点を置く一般財団法人ハヤチネンダの代表理事。ハヤチネンダとは、早池峰山と、地元の言葉で納得を意味する「ンダ」を合わせた造語で、2019年11月に設立されたばかりの新しい法人だ。

理事で、都市緑化の仕事に携わる宮田生美さんは活動について「つながりがバラバラになり、個人が消費者として分断されているのが現代。森や田んぼに『いのち』を感じ、自然や大事な人との関係性の中に納得感を持ち、先祖が守ってきた大事なものを次に受け渡すのが目的」と説明する。

その柱の一つが「いのちを還す森」構想だ。早池峰山を望むこの丘一帯を、思いを共有する人々が眠る場所にする。墓地経営の主体や葬法はまだ決まっていないが、墓石などの人工物を置くつもりはないという。

死者の目線

丘から振り返って下方に目を向けると、人里が見えた。この風景を「死者の目線」と捉えるのは 、ハヤチネンダ評議員の田瀬理夫さん。四半世紀前、アクロス福岡(福岡市) のビル南面の一面緑化を手掛けて話題を呼んだ造園家だ。「ここは日々のなりわいが見える場所」と言う。先祖の霊は故郷の山から子孫を見守る。柳田国男はこれが日本人の霊魂観だと考えたが、まさにそこに基づく意識だろう。

早池峰山を眺めて「ここだったら私の魂は安らぐ」と語る人もいた、と宮田さん。いつもは都会で暮らしているが、自分もいずれはあの山に帰って大きな「いのち」に溶けていくという感覚。その思いを共有する人々とのつながり。地縁や血縁が薄れた今、「仲間と出会って新しい縁を結ぶ。そして自分が眠ることでこの環境を次世代に渡す 」。今井さんは「完成した森ではなく、直接手を入れる余地を残し、その時間も共有したい」。

「いのちを還す森」は 墓苑事業だが、大切なのは価値観の共有。そのために自然と「いのち」の在り方や死生観について学び、語り合うシンポジウムなどを東京を拠点に春からオンラインで始めた。「ンダ部」と呼ぶイベントの開催だ。関心を寄せる人は多く、参加者は全国に広がる。

美しい景観

ハヤチネンダの主なメンバーは遠野と長く関係がある。東京から仕事で通って自然や文化に魅せられた人々で、約20年前にみんなが集まれる施設、クイーンズメドウ・カントリーハウスをつくった。 馬を放牧し有機農業を行うが、馬は使役せず人と共にある時間を大切にする。 ハヤチネンダの拠点でもあり、美しい景観が続くことを願い、「ここで眠りたい」との思いが活動につながった。

植生調査を終えた日の早朝、今井さんらと共に10キロほど離れた荒川高原牧場に出向いた。 馬産地 ・遠野の文化的景観を示す場所だ。放牧されてのんびりしている多くの馬 と、それぞれの時を過ごす。あらゆる「いのち」で構成された大自然を体感する瞬間。風は心地よく、光景が目に染みた。

(共同通信編集委員・西出勇志)

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